Meiji.net

世界秩序への挑戦を抑止する「冷戦」の戦略とは?
  • Share

長期化するウクライナ戦争の最中、2023年5月にゼレンスキー大統領が広島を訪れ、各国首脳と会談しました。他方、東アジアでは台湾海峡の緊張感が高まっています。ロシア、中国とアメリカとの間で深まる対立を「新冷戦」と呼ぶ動きもある中で、私たちは東西冷戦の歴史から何を学べるでしょうか。

米・中・ロの大国間競争時代

鈴木 健人 2023年5月のG7広島サミットは、ロシアと中国に対する明確なメッセージを発信したと思います。

 特にウクライナのゼレンスキー大統領がアメリカのバイデン大統領らと並んで写真を撮り、共同声明でロシアの軍事侵攻を全面的に批判したことは、G7と価値観を共有する各国の連帯を世界に印象づけました。

 現在の国際情勢は、アメリカを中心とする「リベラルな国際秩序」に、ロシアと中国が挑戦する図式となっています。

 ウクライナ戦争は、第二次世界大戦以後のヨーロッパで初となる大規模な軍事衝突となりました。一方のアジア太平洋地域では、中国が力を背景とした影響力の拡大を図っており、台湾有事の可能性は日々高まっていると認めざるを得ません。

 他方で、長らく覇権を握ってきたアメリカの近年の世界戦略を示す文書からは、すでに大国間競争の時代が再来しているとの認識が見て取れます。

 すなわち、冷戦終焉後の米国一極支配の構図は、G・W・ブッシュ政権による「対テロ戦争」での失態、オバマ政権の「アメリカは世界の警察官ではない」という発言、トランプ政権の米中貿易摩擦を経て、いよいよ完全に終わりつつあるのです。

 こうした厳しい現状において、リベラルな国際秩序から恩恵を受け、それを支える立場である日本は、どのように振る舞えばよいのでしょうか。とりわけ地理的にも近い中国の周辺で高まる緊張をどうしたら緩和できるでしょうか。

 これは単に防衛力を強化すれば解決する問題ではなく、いかなる世界秩序を目指すかという新たな構想力の問題でもあります。その意味において、米国が冷戦期に展開した「封じ込め」構想は、私たちに考える材料を与えてくれるでしょう。

「封じ込め(containment)」とは、米国人外交官ジョージ・F・ケナン(1904-2005)が第二次世界大戦の終戦直後に提唱した論に由来する、米国の対ソ戦略および世界戦略です。

 そして、最終的にこの構想は、1991年12月のソ連崩壊という、20世紀の米国の世界戦略の中でも最大の成功を収めるに至りました。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい