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2024.02.08

ESGやサステナビリティだけ分析しても意味がない?

ESGやサステナビリティだけ分析しても意味がない?
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世界的潮流としてESGやサステナビリティを重視した企業経営が求められるなか、企業が投資家向けに行うディスクロージャー(情報開示)においても、そうした財務諸表に記載されない情報に注目が集まっています。一方で、日本では企業情報を分析する専門家であるアナリストの絶対数が少ないという課題もあります。

ディスクロージャーを取り巻く新たな環境

奈良 沙織 近年、上場企業のディスクロージャーは目覚ましく変化しています。上場企業では多様なステークホルダーがいることからより高度な情報開示が求められますが、投資家にとってさらに有益な情報提供を行うことを目的に、この20年ほどで様々な情報開示の改革が行われてきました。

 たとえば、2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入に伴い、企業はガバナンスに関する開示の充実が求められるようになりました。さらに近年では、中期経営計画や長期ビジョンの開示、人的資本の開示、サステナビリティ開示、気候変動への対応状況を示す開示、非財務情報の開示なども注目を集めています。

 私が実務で日本株のアナリストをしていた2000年代前半は、ディスクロージャーといえば主に有価証券報告書や決算短信などフォーマットに従って開示される財務情報であり、投資家もその情報や業界の調査を中心に企業分析を行っていました。しかし、今はそれ以外の情報の分析にも多くの時間を割いており、企業によっては財務情報を分析する担当者(従来の株式アナリスト)とは別にESGや議決権の内容を精査する部署や担当者を置いています。

 こうした変化が生じた背景には、海外の投資家が日本の株式市場に投資しやすくするために、グローバルで求められる開示に対応してきたことがあります。また、2000年代の後半に起きた金融危機や、その一因として指摘されている企業と投資家のショートターミズム問題も関係しています。

 ショートターミズムは短期志向または近視眼的行動と訳されます。2000年代の中ごろより、投資家が短期のリターンを追求するあまり、企業に短期的な業績を要求する傾向が高まりました。そして、こうした投資家のプレッシャーから企業も短期的な利益を計上するために長期的な投資や企業価値を犠牲にしたことが指摘されています。その失敗を繰り返さないためにも、金融危機以降は企業も投資家も長期的視点で経営と投資を行おうという流れに変化しています。

 しかし、投資家が長期的に投資するためには、企業が長期に渡って持続的に企業価値を創造していく必要があります。また、企業が投資を適切に選択しているか、事業を適切に運営しているか、事業から得た利益を適切にステークホルダーに配分しているかをモニタリングする仕組みも必要となります。こうした経緯から、ガバナンスが重視されるようになりました。

 加えて昨今では、企業の価値創造の源泉が従来の有形固定資産から無形の資産に移行しており、財務諸表に計上されない資産の重要性も高まっています。

 たとえば、M&Aにより成長している企業の場合、のれん等の無形資産に関する開示は不可欠ですし、デジタル投資やDX、研究開発等が成長の原動力になる企業であれば、その投資の内容を投資家は知りたいと思うでしょう。また最近では、企業で働く人=人的資本の開示も注目を集めています。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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